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本業と副業は区別がつかないのが普通

Posted by local knowledge on July 15th, 2022

「副業禁止規定を廃止しよう」という動きは、バブル崩壊直後、つまり1990年くらいに「働き方の多様化」「ひとりの人間の中にある多様な個性を活かす」「自己実現への近道」などの美辞麗句に彩られた柔軟な制度として礼賛され、ちょっとしたブームになったのですが、実際に増えたのは派遣労働者に過ぎず、それも(現在とは異なり)正社員よりも自由な働き方を選べるということで積極的に派遣労働を選んだ主婦が急増しただけで終わったような記憶があります。そもそもこの「副業禁止規定廃止」は、高度成長を実現した日本型雇用(終身雇用制度)が破綻したことをひた隠しにするためのでっちあげられた流行だったのかも知れず、この辺りを起点に「平均所得が横ばい」の悪夢の30年間がスタートするわけです。

昨今、様々な社会情勢を背景に、性懲りもなく政府が「副業」をまたぞろ奨励し始めたわけですが、よくよく考えてみると「副業」というのは案外難しい概念で、(自分自身がそうなのですが)何が「本業」で何が「副業」かと問われると、答えに窮するのですね。それは、1)もっとも時間を費やしている仕事、2)もっとも儲かっている仕事、3)もっとも好きな仕事、の3要素が時間的に変化するからです(加齢も大きな因子になります)。大企業(従業員数1000人以上の法人:総労働人口の25%前後を占める)に勤務する人は迷うことなく1)を本業とみなせると思うのですが、会社の規模が小さくなるほど従業員も経営者自身も「いろいろなことをやらされる」ことになるので、どんどん本業と副業の区別がつかなくなることが多いのです。

余談ですが、この1~3の中で最もストレスフルなのは(意外ですが)3なのですね。なぜかというと「好きな仕事」には必ず「好きな仕事を進めるためのやりたくない作業」が納豆の糸のようにまとわりつくからです。そして最終的には「俺、本当にこの仕事好きなのかな」と悩むことになる(笑)。

さて、この本業と副業の区別がつかない状態は心理的には少々不安定ですが、経営的には安定すると断言できます。1人の人間が自分の中に複数の“事業部”を抱えておけば、ある事業部がコロナ禍等で壊滅しても、残りの事業部が稼いでくれる可能性があるからです。例えば、来店してくれるお客様ありきのレストラン経営一本やりよりは、野菜を育てて販売する事業部があったり、レシピを販売する部門があったり、弁当を作る事業部を持っているほうが安定します。この時、何が本業で何が副業かという区別自体が無意味になります。加えて、“部門”が複数の人で構成される必要はありません。自分自身を複数の部門に時分割多重化(time division multiplexing :通信業界の用語)すればいいだけの話です。 このマルチタレント性は特に労働人口の少ない地域では本領を発揮するはずで、なんでもそこそこのことができる器用貧乏(?)は当該地域にとってはかけがえのない人財になる可能性が高い。例えば公立図書館の司書業を本業とする人も、実は他にいろんなことができる才能があるはずだし、マルチタレントな人が自分の仕事の一部に図書館に関連した業務を加える、ということも普通になるでしょう。しかもそれが(必ずしも当該地域に出向くことなく)リモートワークとして実現できる可能性もある。

ローカルナレッジ 発行人:竹田茂

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