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ポイント制度から離脱せよ

Posted by local knowledge on October 28th, 2022

ポイント制度はマクロ経済からの観点では「デフレスパイラル」を誘発しやすいはずで、それは最終的に消費者自身の労働者としての給料がどんどん下がっていくことを意味します。低価格であることを売りにしている家具や家電などの量販店で「え、こんなに安いの?」と驚愕しつつ買い物をするのは、タコが自分の足を食べて「旨い!」と言ってるのと同じなのです。

事業者がポイントを発行した時に特に何らかの会計処理が必要になるわけではありませんが(国際会計基準=IFRSに準拠する場合は少し異なります)、ポイントが行使された時には、売り上げ値引き、あるいは販売促進費として経費計上されます。ポイント制度はユーザーを囲い込むための単なるディスカウントに過ぎない、ということです。競合する他社が存在する時のインセンティブとして利用されますから、ポイントを使い切ったユーザーはデフォルト(債務不履行ではなく、コンピュータでいうところの初期値)状態に戻ることになります。この時点で当該販売店に対するロイヤルティ(loyalty:忠誠心)はゼロになる、と考えられます。家電のように販売している商品で差別化できない業態では、このデフォルト状態を避けるためにさらに様々なインセンティブを用意しなければならないハメになる訳です。競合他社が存在する訳ではない政府までがマイナポイントの事業費として総額約3000億円を用意しているくらいで,これで「給料が増えない」と騒いでいる日本という国は相当ヤバいな、と思います(給料が増えないのは他にも要因がたくさんありますが)。

ところで溜め込んだポイントを使い切った時にある種の開放感を感じた方も多いのではないでしょうか。「自分がポイントを貯めた店で買い物をしなければならない」という制約から解き放たれるからですね。そもそも人生の豊かさの指標の一つに「オプション(選択肢)が豊富であること」があると思いますが、ポイント制度が怖いのは、ポイントを発行している狭い世界だけが人生になってしまうことです(大げさですが)。例えば旅行に出かけようとする時に、本当に行きたい場所よりは、マイルが貯まっているエアラインの就航地を優先してしまいがちになることってありますよね? このように「目的と手段が逆転してしまっている」ことに気がつかず無邪気に「安くて便利」のトラップにハマるのはある種の機会(opportunity)の放棄につながるのではないでしょうか。

これは買い物としては相当貧乏くさい。組織は、立ち上げた時の社会的意義は必ず形骸化し、いかに長く継続させるかということそれ自体が目的化することになっていますが、ポイントを貯めることが目的になってしまうような買い物もこれと同様ですね。加えて、ポイント制度は販売する商品の品質などで差別化できない時の苦肉の策なので、長期的には品質を向上させようという製造者のマインドを蝕んでいくことになります。結果として「安かろう悪かろう」になってしまうので、それを購入する人にとっては「安物買いの銭失い」になるわけです。

米国Wiredの編集者だったクリス・アンダーソン (Chris Anderson)が2009年に『フリー<無料>からお金を生みだす新戦略」を発行して話題になりましたが(地下経済:underground economyを別にすれば)「フリー」というのは眉唾ですね。サービス提供と課金タイミングが何年にもわたって離れているので、それが一見無料に見えるだけであって、ポイント制度同様、顧客(候補)をロックインさせるための長期戦略の一つに過ぎません。「30年の住宅ローン」も金利分の支払いに関する十分な説明がないことが多いので「情勢が変化したので金利上げろ」という話になったら、5000万円以上のローンを組んでいる人はパニックでしょうね。ほぼ間違いなくその住まいを売却せざるを得なくなる(=一種の損切り)はずです)。ゼロ金利政策が続くことを前提にして住宅ローンを組むのは自殺行為です。

最も賢いのは「自分でもできる簡単なメインテナンスで繰り返し長く使えるものやサービス」を購入することです。購入時の価格がそれなりに高額だったとしても長期間の使用に耐えられるのであれば単位利用期間あたりの利用コストは劇的に安くなるはず。鉄のフライパン、音楽で言えばクラシック、重版・増版を繰り返している書籍、カメラはライカ(LEICA)ですね。課題先進国の日本が今最も問題にしているのはどうやら「円安」のようですが、円安が問題なのではなく、海外の人や企業が高価格でも(繰り返し利用できるので)買いたいと思う日本の製品・サービスがほとんどない、ということが最大の問題なのです(高価格が設定できるのなら円安かどうかはどうでもよくなります)。半導体製造装置はその意味で(良くも悪くも)非常に象徴的な製品なのですが、これについて語るとまた長くなるので、今週はこの辺で。

ローカルナレッジ 発行人:竹田茂

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