安全運転と協調行動
Posted by local knowledge on November 11th, 2022
運転席に着座したら「自分は今日、これからどんな事故を起こす可能性があるのだろう」という具合に“最悪の事態”をイメージしましょう。出発地から目的地までのルート中で考えられる事故の可能性を想定するのです。自動車の運転にはそれくらいの覚悟が必要なのだ、と肝に銘じてください。このルートに首都高速が含まれる場合は特に注意が必要です。首都高速は現在の交通量を考慮せず、かつ(ありえないほど短い合流車線などの)非論理的・非常識な設計が至る所に点在します(ただ皮肉にも、想定していない交通量による慢性的な渋滞が発生しているので、事故の可能性はむしろ低くなっているのですが)。特に箱崎IC近辺は設計が出鱈目なので、なるべくここを通らないようにしましょう。また、対面通行の一般道で「なぜ対向車がセンターラインを越えてこっちに向かってくることはない、と言い切れるのかがわからない」という理由で運転免許を取得することを拒否している友人がいましたが、彼の感覚は実に正しい、と思います。対向車のドライバーが突然気を失う可能性すら想定しなければならないのがクルマの運転なのです。
運転時は前40%、後40%、左10%、右10% で注意を分散させてください。特に後方40%への注意が意外と重要です(つい最近、痛ましい事故が発生しましたが、高速道路などで渋滞の最後尾につけてしまった場合は(追越車線ではなく)必ず走行車線(最も左側の車線)につけ、常に後方を注視してください。減速している様子が確認できず、ハザードもつけずに接近してくる車両があったら、躊躇せず路側帯に逃げてください)。確認はGaze(凝視)ではなくBrowse(ざっと見る)することによって全体感が把握できるとむしろ“妙な気配”を感じとるのが容易になります。初心者は前方のみを必死で凝視しがちですが、これはむしろ危険です。また運転時はタイヤの挙動に(ステアリングやシートを通じて)感じるように努力してください。クルマを構成する要素で路面とコミュニケーションしているのはタイヤだけです。車両感覚は、ボディではなく「四輪が今どこで何をしているか」を通じて磨くようにしてください(これには少し熟練を必要とします)。
ハービー・山口氏(写真家)の名言に「(ポートレートを撮るとき)頭上の空間をなるべく多く確保すれば希望を撮影できる。現実を撮りたいのなら足元を撮れ」というものがあります。「足もとを見る」は人の弱みに付け込む、という意味ではあまり褒められた行為ではありませんが、その人がどんな靴を履いているか、それが大切にメンテナンスされているかにそのひとの生活の様子が垣間見えるのは確かでしょう。同様に、他車をチェックする時はタイヤ&ホイールがきちんとメインテナンスされているかを観察するようにしましょう。ボディや室内がピカピカでもホイールの汚いクルマ(のドライバー)は信用に値しないと考えて良いと思います。
いずれにしても自分のクルマの周りに存在する全てのものは「基本的には信用できない」と考えるのが安全運転上の鉄則です。つまり、全てを自分(の車両)から遠ざける運転を心がける必要があります。特に高速道路においては「過剰とも思える車間距離」が重要です。安全運転とは速度の問題というよりは車間距離の問題なのです。雨天時の高速道路の追越車線で煽り運転をしている馬鹿(Proboxや大排気量の大型ワゴンに多い)をたまに見かけますが、こういう車両には近づかないのが安心です。
さらに、運転時に最も注意したいのは自転車です。道路交通法上は「軽車両」、つまり立派な車両なのですが、“当然のように”歩行者のように振る舞うことが多いのでその挙動が非常に予測しにくい。自身が車両であると認識せず平気で一方通行を逆走してくるので、一方通行指定が多い狭い住宅地における自転車はむしろ「とんでもないスピードで向かってくる歩行者」くらいに認識しておいたほうが無難です。彼らに「自転車は車両だ。あんた逆走してるぞ」と説教してもおそらくポカンと口を開けるだけだろうと思われるからです。
自転車が車両である以上、本来資格試験を通過した人以外は利用してはいけないものにすべきですが、現実の自転車の利用状況を考えるとこれはあまり現実的ではありません。ただ、年に一回(たとえ小学生だろうと)講習を受ける義務はあってもいいかもしれません。オンラインで15分程度で終了するもので十分でしょう。自転車が車両であることを認識させる、ということが主眼になります。その講習を受けた人しか自転車を利用できない、とすれば事故は激減するはずです。ただ「自転車は車両だから車道を走れ」というルールにした瞬間、自動車にとっても、またその自転車にとっても極めて危険な状況が発生します。特にクロスバイクやロードバイクのタイヤは非常に細いことが多く、道路上の小さな小石に乗り上げて横転することがあるので、なるべく距離を取った上で追い抜いてしまった方が良いでしょう。また日本は自転車専用道路が全く整備されず、加えて車道の一部にラインを引いて「自転車ナビライン」などと称していますが、かなり姑息な、その場しのぎの手段に過ぎず、必ずしも安全性が確保されるものではないと思われます。
同じ理由で「自転車安全利用五則」が改定され、「自転車は、車道が原則、歩道は例外」と記載されていますが、これも現状を無視した改悪でしょう。自転車と自動車の立場に立つと「自転車は歩道が原則、車道は例外」が現実的です。「車両である、という認識で歩道を利用する。当然歩行者優先」を大原則にする、ということです。ただしこの場合、歩行者自身にも歩き方のマナーが求められることになります。みんなが手を繋いでゆっくり歩くことで歩道の幅いっぱいに広がってしまう「微笑ましいけど鬱陶しい家族3人組」はよく見かける光景ですが、これは基本的にNGです。また自転車はそのようなグループに対してベルを鳴らして警告すべきではなく「すいませーん」などと声をかけながら遠慮がちに走り抜けるようにすれば街の雰囲気はとても良いものになるはずです。
結局のところ「交通」とは移動するものすべてのリアルタイムの協調行動なので「自転車は」とか「自動車は」という課題設定がナンセンスなのですね。その意味においては、さらに視点を広げれば「赤字ローカル線の廃止に伴う諸問題」を鉄道だけの話にとどめているのがそもそもの間違いで、歩行者からロケットまで含め「どのような協調行動がそれに関わる人たち全てを豊かにするのか」という全体最適化の議論が必要なはずです。行政には不可能な作業でしょうから、これをAI(人工知能)に丸投げする、というのが案外「全員が納得する」ような気もします。
ローカルナレッジ 発行人:竹田茂
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