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解釈こそが創作

Posted by local knowledge on December 2nd, 2022

家の外装を修復することになり、およそ1ヶ月間、数人の職人さんが出入りすることになりました。こちらはテレワークがデフォルトなので、職人さんの仕事ぶりを観察させていただく機会に恵まれ、自分の仕事の合間に気分転換を兼ねて(鬱陶しいですよね)、その仕事ぶりに注文をつけてたりしたのですが(嫌な施主であることは自覚しております)、ここで発見したのは、腕が立つ(と思われる)職人ほど態度が控えめで物腰が柔らかい一方、それほどでもない(と思われる)職人ほど自信満々かつ聞く耳を持たない、ということですね。後者には(自分も含む)メディアを作る人に近い、つまり何の専門家でもない編集者による「お前は知らないだろうけれど俺は知っている。教えてあげよう」という上から目線な態度と同じものを感じたのでした(この歳になると、それもまた可愛いなあと思えるようになるのですが)。

そもそもメディアは作った人とそれを鑑賞する人の相互作用で成立します。どんなに立派な雑誌を作ったところで読者がいなければただの紙の束ですし、誰も聞いていないラジオは不気味な独り言に過ぎません。このあたりのことを喝破したのが、カルチュラル・スタディーズ (cultural studies) という言葉を作ったことで有名なスチュアート・ホール(Stuart Hall)による「エンコーディング・デコーディングモデル」です。このモデルは情報学の分野でそれまで支配的だった「シャノン=ウィーバー・モデル」を完膚なきまでに叩きのめしたような気がします(発展させた、と言えないこともないですけどね)

「エンコーディング・デコーディングモデル」は、かいつまんで言うと、メディアを作った人(encoder)とそれを鑑賞する人(decoder)は、実はそれぞれがそれぞれの立場からメディアを「創作」しているという考え方です。特にデコーダーの「解釈」と言う行為そのものが実は創作である、というかなり思い切った主張に特徴があります。ただ、エンコーダーが作ってからデコーダーがそれを受け取るまでの間に時間差(time lag)があることが前提になっているテキスト主体のメディア(書籍・雑誌・新聞など)でこれを実感するのはなかなか難しい。どうしても上から振り下ろされたものをありがたく拝読させていただく立場になりがちです。逆に非常にわかりやすい「エンコーディング・デコーディングモデル」がライブコンサートやスポーツ観戦、つまりスタジアム(stadium)で繰り広げられる“メディア”ですね。

観客がいなければただのギグ(gig)に過ぎないコンサートも、演奏に対して満員の観客が気の利いた反応をしてくれると、それ自体が“コンテンツ”になることはみなさんも実感のあるところでしょう。観客の笑い声がない落語が味気ないのと同じです。優れたミュージシャンほど自分の作品がオーディエンスとの協調行動の結果であることを体感しているはずで、下に振り下ろすというよりも、ヨコの相互作用を楽しんでいる感じになるはずです。ソーシャルメディアの良いところはこの「横の相互作用」が可視化されたインタフェースを採用していることでしょうね。エンコーダーとデコーダーがリアルタイムで入れ替わったりするところがエキサイティングなわけです。ところがこれは論点(issue)が人の数だけ拡散していくことになるので、「何を信用して良いかわからない」と言う事態になりやすい。

みんながメディアの時代、みんながエンコーダー/デコーダーの時代が良いことなのかどうかはよくわかりませんが、少なくとも(旧来の)メディア関係者が「読者」「視聴者」「観客」という言葉を普通に使う時代は少しづつ終焉に近づきつつあるのかもしれません。その代わりに浮上してくるのがサポーター(supporter)もしくはその類似語としての以下の言葉、すなわち、advocater、promoter、champion、defender、upholder、votary、artisan、crusader、proponent、campaigner、believer、apologist、backer、helper、adherenter、follower、allyvoter。disciple、comrade、apologist、fanaticmember、member、insider、contributor、donor、benefactor、sponsor、backer、patron、subscriber、wisher、angel、second、breadwinner、associate、helper、assistant、sustainer……でしょうか(たくさん挙げ過ぎたので、明らかに意味が違うものも混じってますが、ご容赦ください)。W杯カタール大会でこれを実感した人も多いでしょう。

私たちがウエブサイトやウェブメディアを作る時には、まずそのウエブサイトという“舞台”に登場する可能性がある人(player)とその人に期待したい振る舞い(behavior)を仮組みしますが、これは雑誌の創刊よりはコンサートやイベントの企画に似ている、ということがわかります。「ウェブマガジン」という言葉は基本的に考え方の土台が間違っている可能性が高いですね。

ローカルナレッジ 発行人:竹田茂

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