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構造(architecture)こそがコンテンツ

Posted by local knowledge on January 20th, 2023

YouTubeを使い続けていると、視聴履歴に基づいたレコメンデーションが加速され始め、最初は「お。気が利いてるな」と感じるのですが、似たような動画が次から次へと表示され始めると、自分自身の視聴履歴の偏りやバランスの悪さに嫌気が差し始め、加えて当該分野にさほど深いコンテンツが存在しない、ある種の底の浅さに突き当たることになります。

これはYoutbe自身がその構造(architecture)を押し付けない、もしくは構造そのものを保持していない(広告がたくさん表示されれば良いという構造はありそうです)ということに依拠します(Youtubeは単なる巨大なファイルコンバータに過ぎない、という醒めた観察も存在します)。大学などではこの構造はシラバス(syllabus)として表現されているわけですが、Yotubeにはそのシラバス的なものがない、もしくはシラバスもどきのカテゴリーを簡単に破壊し、広告表示を優先するアルゴリズムだけがある、ということです。シラバスのない大学に入学しようと思う人はいないでしょうから、YouTubeは「教材には値しない」ということになります(私自身はYotubeは巨大なマニュアル群になるのがいいのでは、と考えています)。

メディアビジネスはその内容物(あまり好きな言葉ではないですが、いわゆる“コンテンツ”)の品質を問題にすることが多いのですが、ややこしい言い方をすると、内容物ではなく構造自体がコンテンツなのですね。広告がたくさん表示されることを目的とする構造はそもそも信頼されない、ということも含め、現在の様々なメディアが抱えている問題はある種の「構造自体の経年劣化」で説明がつくものが大半でしょう。

構造はシラバスのようには可視化されていないことが多いので、自分の(仕事を含む)生活を見直した方がいいと考えている人は、そのサービスやビジネスあるいは制度設計に隠された構造を探索するクセをつけると良いでしょう(一種の構造主義的解釈ですね)。例えばEV(電気自動車)の購入を検討する場合は、EVとEVを取り巻く社会情勢からその構造をとりあえず見抜いていく必要があります。このときモータージャーナリストの知見はほぼ役に立ちません。「安定感があってコーナリングも快適」などというどうでもいいことでそのクルマを褒めちぎってたりしますが、四角い煎餅のような重量物(蓄電池)をフロア(ミッドシップ)に敷き詰めれば安定感が増すのは当たり前です。

そうではなく、EVに対しては「動く電気製品に過ぎない」というクールな観察が必要なのですね。電気製品である以上、重要なのは充電設備です。EVの評価は、EV車体そのものではなく、充電設備の充実度や使いやすさこそがUII/UXであり、コンテンツであり、評価の対象になる、そのような構造を持っているということ、そしてその構造自体が(世界情勢や経済・産業の都合から)かなり脆弱だというところまで見抜いた上で行う必要があります。メディアや政府はこの脆弱な構造は発展途上、という言い方をしますが、この辺りの言説で唯一信用できるのはトヨタの豊田章男氏だけですね。

あるいは、ChatGPTがブラウザ、Googleに続く(インターネット上の)第3の革命と言われていますが、ここには「正しい答えが存在する」という前提としての構造が埋め込まれているようです。「世の中には全てにおいて正解が存在する」というなんとも純粋無垢な構造ですね。Q&Aにおいて重要なコンテンツはA(answer)であり、Q(question)はそのための付属物という考え方は一般的だとは思いますが、実は優れた品質のAを引き出せるかどうかはもっぱらQの品質に依ることが多い。主役はQなのです。そしてそれが隠れた構造に他なりません。

ローカルナレッジ 発行人:竹田茂

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