あなた自身の専門性をまだ見ぬ分野へ移動させる23人の23冊との出会い
Posted by local knowledge on November 7th, 2023
オーストリアの哲学者イヴァン・イリイチ(Ivan Illich)といえば、バナキュラー(vernacular)、サブシステンス (subsistence) 、シャドウワーク(shadow work)などの言葉が有名ですが、もう一つ「脱学校」すなわち学校という制度の撤廃を提言していました。名著『脱学校の社会』(1997年、東京創元社)の中で「脱学校とは、特定の人が他の人に対してある集会への出席を義務づけることができるような権限を廃止することである。それはまた、年齢、性別にかかわりなく、すべての人が会合を開く権利をもつことを認めることでもある。今日ではこの権利は、会合が制度化されたことによってかえって大幅に制約されてしまった。会合は、元来、個人個人が勝手に主宰できる。それは何らかの機関によって制度的につくり出されたものであってはならない。すべての人に教育を与えるというのはすべての人による教育をも意味する。脱学校化された社会(deschooled society)は、偶発的な教育あるいは非形式的な教育への新しいアプローチなのだ」と指摘しています。
かなりエキセントリックな理想論ではあるのですが、自分自身の幼少期を振り返ってみると、案外思い当たるフシがありまして、というのも、私の生家が製材業を営んでいたことから、実に様々な職人や職種の人たちが頻繁に出入りする家だったこともあり、三男坊の私は彼らからなぜかとても可愛がっていただき、そしていろんなことを教えてもらったんですね。逆に学校で何かを学んだ記憶はほとんどありません(学校に行くのが待ち遠しかったのは「学研の科学・学習」の発売日、遠足、そして運動会くらいですかね)。まあ色々な事情があるのは承知していますが、地域は教育を学校に丸投げしすぎなんですよ。小学校の教諭といえどもメインの業務は研究であるべきで、本格的な教育は家庭や地域でやっといてくれ、というのが正直なところだと思います(部活動を地域で面倒見ようという動きが出始めているのはとてもいいですね)。
戦前は多彩かつ複雑なパス(経路)が入り乱れていた日本の教育制度は、敗戦と同時にポツダム宣言を受け入れることで、非常にシンプルな「6.3.3(現在は事実上の6.3.3.4)制」に半ば強制的に移行しました。効率重視のマスプロダクション・システムとしての教育制度、つまり、同じ年齢の子供が同じ教育を受け、一定時間が経過したら子供の意思とは無関係に次のステップへ強制的に押し出されるというシステムが、大量生産・大量消費を前提とする市場拡大主義と極めて相性の良い体制だったのは確かかもしれませんが、そのような効率一辺倒の時代はもう終わったんです。実際、極めて自由で魅力的な学校あるいは学校もどきがあちこちに出現しているのはみなさんもよくご存知の通りです。
さて、ローカルナレッジは来たる11月25日(土曜)に、その「学校もどき」(正式名称は「Local Knowledge Fall 2023:あなた自身の専門性をまだ見ぬ分野へ移動させる23人の23冊との出会い」)を1日かけて実施します。今回は村上陽一郎氏(東京大学名誉教授)と山極壽一氏(元京大総長、総合地球環境学研究所・所長)がメインスピーカーのイベントです。ゴリラの研究者として著名な山極壽一氏も「生活を豊かにするために必要な自由は、集まり、移動し、対話することで成り立つ。この自由は人間だけが持つものだ。この自由が保障されなければ人間ではない」と先にご紹介したイチイリと似たようなことを主張されてます。という訳で「じゃあ、人間ってそもそも何?」を皮切りに村上・山極両氏、そこに東北大学名誉教授の哲学者・野家啓一氏が絡むという、とても土曜日の朝に実施すべきとは思えないテーマからスタートします。オンラインセミナーなので天候は関係ないのですが、ぜひこの日の朝は全国的に晴れていてほしい、と切に願っております。
今回のセミナーは12月以降定期的に開催される様々なローカルナレッジ・ミーティングを引っ張っていくリーダーのお披露目も兼ねています。そして登場いただくみなさんには各プログラム・テーマでのディスカッションや書籍とは別に「私のお勧めの一冊」を紹介していただく予定です。長時間のセミナーですが、全て聴講いただく必要はありません。気になるセッションだけご参加いただくだけでも良いと思います(1日付き合ってくれる人には何か謹呈させていただきたいくらいです。用意してませんが)。凄い人達に集結していただきましたが、Zoomウェビナー(Webinar)なので顔出しする必要がありませんからお気楽にご参加いただけるかと思いますし、実際カジュアルに進行する予定です。それぞれのプログラムの開始時刻も微妙にずれるはずですが、そのあたりはご容赦ください。ささやかながら、皆さんにとって有益な「読書の秋」がご提供できればいいな、と考えています。なお今回の「Local Knowledge Fall 2023:あなた自身の専門性をまだ見ぬ分野へ移動させる23人の23冊との出会い」は見逃し配信を実施しません。ライブであることにこだわりたい、と思います。
お申し込みはこちらから。無料です。
ローカルナレッジ 発行人:竹田茂
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