悲しき学芸員
Posted by local knowledge on November 15th, 2023
毎週ブラタモリを楽しみに見ています。タモリの博識や推理力も感嘆に値しますし、スタッフの皆さんが事前準備に費やしているであろう時間とコストも大変なものだろうな、ということが容易に想像できるわけですが、実は、この番組のムードを決めているのはガイドとして登場する学芸員(キュレーター)、もしくは学芸員に匹敵する調査・研究能力を有する人々の「狭くて局所的な、しかし猛烈に深い知識」、そしてそれを楽しそうに我々に披露してくれる人柄にあるような気がします。
ところで、文化芸術基本法の前文「文化芸術を創造し,享受し,文化的な環境の中で生きる喜びを見出すことは,人々の変わらない願いである。また,文化芸術は,人々の創造性をはぐくみ,その表現力を高めるとともに,人々の心のつながりや相互に理解し尊重し合う土壌を提供し,多様性を受け入れることができる心豊かな社会を形成するものであり,世界の平和に寄与するものである。(中略)我々は,このような文化芸術の役割が今後においても変わることなく,心豊かな活力ある社会の形成にとって極めて重要な意義を持ち続けると確信する」には大いに賛同するものですが、そのための予算が1,076億円と聞くと「おいおい」と言いたくなります。
先日の国立科学博物館でのクラファン騒動(国立の博物館は“学芸員”とは呼ばないとは思いますが、事実上同じでしょう)を受けて、施設整備費として補正予算案に計上された金額もたったの20億円です。調子のいい中堅企業であれば1社で年間1,000億円程度の売り上げを上げるのはさほど難しくありませんから、高邁な思想と予算のギャップは何か悪い冗談なのではないかとさえ思えてきます。ブラタモリに登場する学芸員の皆さんの“好き”につけ込んだ搾取の構造が浮上してくるわけです。ただ、私自身はこの業界の実態をほとんど知りません。外部から観察していて想像しているだけです。
というわけで、来週11月30日に開催するローカルナレッジ/本の場では、数年前まで公立美術館で専任の学芸員として働いておられた松山聖央(まつやま・まお)さんにご登場いただきます。もともと大学で生物化学を学んでいた松山さんは、自然科学的な考え方への違和感から大学院で文転して美学の道に進み、地域で最大級の美術館で正規職に就いて2010年代を過ごすことになるのですが、その松山さんに、現代日本の公立美術館が置かれている状況、学芸員に求められる仕事の実際、欧米の「キュレーター」との職務内容の違い、などについて語っていただこうと考えています。ローカルナレッジ全体としても(微力ではありますが)学芸員をサポートする企画がついにキックオフした、と考えていただいて良いかと思います。皆さんの参加を期待しています。
なおこのメールのサブジェクト「悲しき学芸員」は「悲しき鉄道員 (Never Marry A Railroad Man)」から思いついたもので、そもそもこの邦訳もあるいは歌詞の内容も、来週のイベントとは全く無関係であることは、私と同じ世代の方であればよくご存知であろう、と思いますので、細かい解説は割愛します(笑)。
ローカルナレッジ 発行人:竹田茂
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