軽印刷があるのなら軽出版があってもよかろう
Posted by local knowledge on June 3rd, 2024
小さな会社や組織が頼りにするパートナーに「軽印刷業者」がいます。名刺、チラシなど「大量に作る必要がない印刷物を気軽に安価で請け負ってくれる業者さん」ですね(チェーン展開している大手もあります)。印刷業界自体は大日本印刷や凸版印刷などを中心とした巨大な装置産業が中心ではありますが、大多数の中小企業のニーズに応えているのは軽印刷です。
今回LocalKnowledge/本の場にご登場いただく仲俣暁生さんが始めた「軽出版」はおそらくこの軽印刷のアナロジーでしょう。「軽出版」の可能性に気がついた経緯についてはこちらをご覧いただければと思いますが、「プリントオンデマンド(POD)」のような言葉に比べ、家族写真的な温かみを感じさせると同時に、書籍というよりは「分厚い手紙」に近いニュアンスを併せ持つような気がします。つまり「わかるやつだけにわかればいい」わけで、書店で販売されている書籍のように「誰にでもわかりやすく作る」必要がないので、1)専門性や趣味性の高いもの、もしくは2)その内容が当該地域に住んでいる人でなければ無意味なもの、等に非常に向いている可能性が高いと思われます。加えて、一人出版社の増加、従来型書店の激減と独自の書棚にこだわる地域に根ざした小さな書店の台頭、などの、昨今の出版を取り巻くムーブメントと相性が良さそうです。図書館などはこの「軽出版」のプラットフォームに相応しいような気もします。
それにしても私たちはなぜ「印刷」にこだわるのでしょう。10年ほど前に「データ(archives)は全てクラウドに残る。紙の本はなくなる」という紙の本を出した人がいましたが、ご承知のように現実は逆で、クラウドやPCに溜まったデータは知らないうちに散逸してしまい、文献として頼りになるのはきちんと印刷された書籍や古い雑誌だったりします。まあこれに限らずIT/DX専門家(?)が語る「近未来」は大抵「真逆な形で実現する」ことが多いので「AIでむしろ仕事は増える」「AIが作った楽曲は見向きもされない」「AIが生成したアートは二束三文」「生成AIは古い常識をより堅牢にする」ということになるはずです(多分)。
デジタルデータを可視化するためにはディスプレイが必要で、そのディスプレイは明滅を繰り返す細かいドットの集合体です。そこにテキストが表示されているように見えても、デジタルデータは常にフロー(flow)状態なので、何を表示しても「コミュニケーション」になってしまう、むしろ(日常会話がそうであるように)そのほうがありがたい、と思っている人が多い、というのがデータが散逸そして消滅する理由です。一方、印刷物は「情報が確定(固定)する」のが強みです。微動だにしない(笑)。中性紙でかつ日本のように適度な湿気があると普通に150年閲覧可能です(紙物性については故・尾鍋史彦氏(東京大学名誉教授)の弟子筋の江前敏晴氏(筑波大学)の論考がとても参考になります)。
紙とインクの品質の高さについてはおそらく日本は世界トップレベルでしょう。「デジタル人材10万人育成」にうつつをぬかす暇があったら、もっとアナログなものづくりの人財に投資してほしいものです。ともあれ「軽出版」の始め方について、仲俣暁生さんに色々聞いてみましょう。今回は東京・外苑前のFLAT BASEへの会場参加、またはZoomによるオンライン参加のいずれかの参加方法を選んでいただくことになりますが、彼(仲俣さん)は結構早口で熱っぽく語る人なので、会場参加のほうが聞き取りやすいかもしれません。実は少し前にこのイベントのための援護射撃の記事を公開しているのですが、今回の6月24日のイベントのテーマは「軽出版」であって「橋本治」ではありませんのでご注意ください(そうは言いつつ橋本治話しが多そうな予感もしますが…..)
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