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小さな差異に全身全霊で挑む

Photo :ローカル線の駅と線路 / Free1970 / Adobe Stock

Posted by local knowledge on August 5th, 2024

「オリンピックに出場できただけでもすごいのに、金メダル取れなかったからってあそこまで号泣することないだろ」とか「卵料理は目玉焼きに限る、って別にオムレツだって死にはしないだろうに」という具合に、私たちは、第三者が「何かにこだわる状態」を不思議だなあと感じつつ冷静に観察することが多いようです。この話のポイントは「全員が他人をそのように観察している」という点にあります。つまり1億2千万人全員が「第三者には小さな差異としか感じられない事象に全身全霊をかけてこだわっている」可能性が高いということです(「2位じゃダメなんですか」という某国会議員の過去の名ゼリフは実は非常に的を得た指摘、代表性のある感想だったと思います)。人の仕事が全て大変そうに見えるのも同じ理由ですが、他人が観察した時にどうでもいいと思われる小さな差異にこだわっている1億をこえる人間で構成されているのが日本、というわけです。

ではどうしてそんなに小さな差異にこだわるのか、と言えば、理由はひとつしかありません。「好き」だからです。そして「好き」の最大の特徴と強みは「それが好きな理由に論拠や根拠を必要としない」ということですね。「好きなものは好きなのだ」でOKです(依存症は単なる疾病なので治癒の対象ですから「好き」とは異なります)。むしろ「私はなぜそれが好きか」を理路整然と説明されると、私たちはその「好き」が本当の「好き」ではないと判断するはずです(家庭の事情とか、先祖代々続く仕事だから、といったような、好きとは無関係な要素のために無理やり好きになろうとしている、と思うはずです)。

「小さな差異に全身全霊でこだわる」のは「人」に限りません。「町(市区町村)」も同様です。さほど違いがある訳でもない「農産物の味へのこだわり」がわかりやすいですが、第三者にどう思われようと、同じ町の人たちが「ある小さな差異にこだわる」ことで一致団結し、矜持のようなものを共有していれば、その町は案外強いはずです。裏を返せば、これは地域課題にはユニバーサルな解が存在しないことにもなります。テレビや雑誌、あるいはこのLocalKnowledgeで紹介される「地域再生のノウハウ」をそのままコピーして地元に適用してうまく行くケースはほぼ皆無といっていいでしょう。「小さな差異へのこだわり」の中身が全ての地域で異なるからですね。つまり地域再生(論)はある程度可能ですが、地域再生(学)にはなり得ない(仮説検証サイクルがうまく回らない)ということになります。『まちづくり心理学』の最大の特徴は、この「科学になり得ないこの領域に関係する全ての学問を環境心理学をハブにすることで、有効な地域活性化の手段になる可能性を探った」という点にあるように思えます。素晴らしい着眼点だと思います。

中心になった編著者は名古屋外国語大学の城月さんですが、他の共著者が全ての別の大学、というのがいいですね。ある意味、連携研究の必然性を感じさせるテーマでありフォーメーションだと思います。彼らがどんな想いでこの研究を進めたのか、そしてどんな将来展望を描いているのかを、今週土曜日(8月3日)の午後、ゆったりと過ごす時間の中でぼんやり一緒に考えてみたいと思います。無料のZoomミーティングですが、サブスクリプションメンバーの方には1週間の見流し配信を実施します。ぜひご参加ください。 
https://www.localknowledge.jp/2024/07/1479/

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