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「8月ジャーナリズム」を材料に、新しいメディアを作る

Photo :日本で一番大きなびわ湖で行われる花火大会 / lastpresent / Adobe Stock

Posted by local knowledge on August 19th, 2024

皆さんは「8月ジャーナリズム」という言葉をご存知でしょうか。これは、広島市原爆死没者慰霊式並びに平和祈念式の中継(8月6日)、長崎原爆犠牲者慰霊平和祈念式典の中継(8月9日)、全国戦没者追悼式の中継(8月15日)、これに加えて全国高等学校野球選手権大会の中継(今年は8月7日から17日間)、さらにお盆(8月15日)での全国各地での動き(14日には岸田首相の次期総裁選への不出馬表明がありました)、日航機墜落事故慰霊登山(8月12日)、そして今年は平成26年(2014年)8月豪雨による広島市の土砂災害から10年の追悼式(8月20日)、あるいは発生頻度の低いモンスーンジャイア(Mon- soon Gyre)を理由とした台風が立て続けにやってきたこと、などが報道されていて、いわゆる「記念日」を中心に、戦争や災害に関連した報道や特別番組が集中すること、そしてその内容が変わり映えしないことに対する批判的な意味合いで利用される言葉かな、と思います。不謹慎な物言いですが、私たち視聴者もこれをある種の“夏の風物詩”として受け止めている側面があることは否めず、それに巻き込まれていないことに安寿しつつ平和を祈念している自分を発見して動揺する、ということもあるかと思います。

しかし同時に、慰霊あるいは平和祈念は尊い行為だと思いますが、これを何十回(何十年?)繰り返しても、事態が全く“改善”されないことに苛立ちを覚える方も多いはず。その意味で「8月ジャーナリズム」は近い将来私たちが構築すべきメディア環境、あるいは政治体制を考える上での格好の材料をふんだんに用意してくれている、と考えることもできます。

佐藤卓己著『増補 八月十五日の神話 ─終戦記念日のメディア学』は「全国戦没者追悼式はなぜ8月15日に行われるのか」を突破口として、最終的には、天皇制を中心した日本という国体が持つナショナリズムのあり方を問う、執拗な調査と徹底的な文献の検証を繰り返した労作です。佐藤さんの著作を読んだことがない方がいらっしゃったら、まずはこの本から始めろ、とお勧めしたい名著、と断言できます。この中に「おそらく、戦後に生まれた私たちに必要なのは、創作写真を抱きしめることではない。記録写真を持つことができない敗者だったという事実に耐えることではあるまいか」という一節が登場(73P)します。これが本日(22日)発刊される『あいまいさに耐える-ネガティブ・リテラシーのすすめ』とも呼応している、と考えられます。

来る8月26日(月)はこの2冊を題材に、私たちがこれから構築しなければならないメディア、あるいはメディア環境とはどのようなものかを佐藤さんと議論します。現状のジャーナリズムを批判的に語ることには個人的にあまり興味はありません。むしろそれよりは、これから構築あるいは再構築しなければならない情報環境・メディア環境を議論する場にしたいと考えます。佐藤卓己さんは「文献を正確に検証すること」を徹底する専門家(メディア史)ですから、街場で適当な未来予測やメディア論を展開する人たちとは一線を画す、と言っていいでしょう。私の役割はその佐藤さんから「いかに曖昧な発言を引き出せるか」にあるのかもしれません。テーマは硬いのですが、柔らかい雰囲気で進めようと思いますので、皆さんもぜひお気軽にご参加ください。今年の8月を締めくくるにふさわしい議論になるはず、と予想しています。
https://www.localknowledge.jp/2024/08/1512/

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