屋台的アプローチ

Photo :日本、福岡の屋台カート / Lecker Studio / Shutterstock

Posted by local knowledge on October 16th, 2024

本棚演算の今井さんから『日本のまちで屋台が踊る』の存在を教えてもらった時、真っ先に思い出したのが三谷一馬氏の『江戸商売図絵』でした。この本は、故・松岡正剛氏の千夜千冊でも紹介 されていますが、江戸時代に存在した様々な商いの姿を膨大な絵画資料から復元したもので、当時の庶民の仕事300種類以上を図解している労作です。重要なのは「これらの仕事が今はほとんど存在しない」ということで、仕事なるものが未来永劫同じ形で存在することはほとんどないことを教えてくれます(これは現代にも当てはまるはずです)。同時にイリイチ(Ivan Illich)が言うところのいわゆるシャドウワーク(shadow work)との区別がほとんどついていないということ、そしてさらに特徴的なのは、きちんとした店舗を構えるのではなく、ニーズがあると思われる場所に出向く商いが極めて多い、という点にあります。これが「屋台」につながります。私たちはどうしても「屋台」と聞くと飲食の提供を思い浮かべてしまいますが、売るものが「傘(かさ)」のようなものでも「占い」のようなサービスでも構わないわけです。

さて、日本にはおよそGDPの10%程度に該当する非課税経済圏がある、と言われています。自分が食べるための農園や物々交換などが課税の対象になることはありません。当局としてはそれを捕捉するためのコストを回収できないと考えればとりあえず放っておけ、ということになるわけで、これは大袈裟に言えば極めて自主的な経済圏の確立につながります。屋台にはそのポテンシャルがあるわけですが、同時に昔の規制だらけの屋台(博多が有名かと思います)と違うのは今はインターネットというラフ・コンセンサスを前提とした極めて民主的なコミュニケーションインフラが存在する、ということですね。普通に考えて屋台とインターネットは相性が良いと思われますが、『日本のまちで屋台が踊る』からちょいと気になるキーワードを下記に抜き出してみました。もうほとんどこれは、人生と新しい経済に関する哲学書です。

勝手にやっても大丈夫
生活の延長で屋台をやる
世界に幅と揺らぎあれ
自治区
自生的なルール
自分の手で引っ張っていると生きてる感じがする
気楽にやっているので休んでいるようなもの
屋台は軽車両ではなく巨大なキャリーバッグ
将来に対する不安とは近代が作った時間感覚の上にある観念にすぎない
自分のお客さんに食べさせてもらう
日常の小さなノイズを無視しない
押し付けがましさがないところがいい
仮設住宅を日常化する
柔らかく壊れる
屋台は盆踊り
屋台には限界を突破できる面白さがある
人生の多様化戦略

というわけで、(インターネットを前提とした)新しい働き方、そして新しい経済圏を作っていく時に「屋台的」なアプローチが有効なのかも、という事業仮説が浮上してくるわけですが、この『日本のまちで屋台が踊る』のもう一つの特徴はその出版形態にあります。きちんとISBNを取得していて、かつ著者として著名な社会学系の専門家が多数参画しているにも関わらず、既存の出版流通に頼ることなく、どうやってこの「屋台本」をそれを必要としている「地域」に届けるべきか、に腐心している様子が窺えるのですね。おそらく「屋台本は地域ごとに様々なものがあっていい」という思想なのかな、と類推しますが、そのあたりの詳しい話を明日(10月17日)「屋台本出版」唯一の書籍編集者・中村睦美さんにお聞きしてみようと思います。なお当日は以前「文化的処方」というテーマで島薗塾にご登場いただいた、屋台を引っ張るヘンな医者・孫大輔さんにも話題提供いただきます。この「屋台的」はシリーズ化されるのではないか、という予感がしますねえ。 https://www.localknowledge.jp/2024/10/1634/

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