本の場

「公民館的なもの」が今こそ地域に必要だ ―『公民館を再発明する』を著者・牧野篤先生と読む

Posted by local knowledge on October 30th, 2024

今年6月、東京大学出版会から『公民館を再発明する』が出版されました。『小さな社会をたくさんつくる』というシリーズタイトルを冠した公民館本の3作目、著者は東京大学の牧野篤教授です。

本書「はじめに」には、農政学者・小田切徳美さんの言葉としてこんなくだりが出てきます。「各地の農山村では三つの空洞化が進展している。それは、人の空洞化(略)、土地の空洞化(略)、そして集落機能の空洞化(略)として現れている。(中略)これら三つの空洞化が起こっても、農山村はしぶとく生き残ろうとする。では、何が農山村を決定的に毀損し、無住化を促してしまうのか。それは、誇りの空洞化、諦めだ。」(p.5)

地域コミュニティが誇りを保つために、教え合い学び合って世代や立場を超えて他者を尊重しながら、自分たちが当事者として共に日常生活を送る、ということがどんなに大切か。そのとき社会教育・生涯学習が果たす役割がどれほど大きいか。本書では、島根県益田市や愛知県豊田市の詳細な事例紹介とともに語られていきます。

「第二章 ひとが育つまち」で取り上げられる益田市には、現在、地域の子どもと大人がじっくり語り合う仕掛けが、公民館を中心に何重にも張り巡らされています。以前は学校で「キャリア教育」を受けることで却って「益田には何もない」と感じ、ふるさとを見捨ててしまう子どもが多かったそうです。それが、まちを挙げての10年来の取組みを通して、地元で働く大人たちの実像を知り実際に地域貢献に繋がる学びを重ねた子どもたちが、大学進学後にUターンを希望するケースが増えてきているそうなのです。

また、「第三章 「農的な生活」の自治論」では、実際に牧野先生たちが手掛けた、豊田市山間部の集落へ若者たちが移住するプロジェクトの紆余曲折と目を瞠る成果が綴られます。現在の日本社会について先生は、「人を「○○力」に還元し過ぎてしまうのです。労働力、購買力、生産力、学力、そして最近では社会人力、コミュニケーション力、エンプロイアビリティ(雇用される力)など、人は人ではなくて、モノであるかのようです。」(p.194)と評されます。対照的にこのプロジェクトに参加した若者のひとりは、「これまでこんなに人からよくしてもらったことはない。世話を焼かれたというのではなくて、自分のことを受け入れて、いるだけでありがとうといってもらえる。自分が認められている。こういう感覚は初めてだった。」(p.173)と言い、先生はその声にプロジェクトの可能性を見出します。開始から10数年が経って60名を超える若者が定着し、いま集落は、ちょっとしたベビーブーム(!)なのだそうです。

ローカルナレッジ/「本の場」では、これまで主に公共図書館にスポットを当てて、地域のこれからの豊かさについて考えてきました。宮崎県都城市立図書館、愛知県田原市図書館、名古屋市志段味・守山図書館、島根県隠岐の海士町図書館等々、多くの図書館が「公民館的」な取組みを積極的に展開しておられました。地域をもっと知ること、世代や立場を超えた学び合いの場をつくること、地域の将来を当事者としてみんなで考え何か行動してみること、そのような実践は、地域が豊かに生き延びるために今後ますます欠かすことのできないものになってくるでしょう。

11月21日の「本の場」では、『公民館を再発明する』のエッセンスを著者・牧野先生から伺いながら、今の日本社会でますます重要性を増してきている「公民館的なもの」について考えてみます。公民館のみならず図書館や博物館関係の方、まちおこし・地域おこしに関わる方、地域におけるソーシャルビジネスに関心をお持ちの方、ぜひご参加ください。

本イベントが取り上げる本

『公民館を再発明する』

『公民館を再発明する』

著者:牧野篤

出版社:東京大学出版会

発売日:2024/5/31

4,620(税込)

開催概要

イベント名称「公民館的なもの」が今こそ地域に必要だ ―『公民館を再発明する』を著者・牧野篤先生と読む
開催日時2024年11月21日 (木) 19:30~21:00
※お申込みいただいたみなさま全員に見逃し配信を行います。イベント終了後一両日中にはアーカイブ動画配信を開始し、約1週間のあいだご視聴いただけます。
話題提供者牧野篤(まきの あつし)

東京大学大学院教育学研究科教授
イベント形態Zoomミーティングを利用したオンラインイベントです。
※オンライン参加をお申込みいただいた方および「ローカルナレッジ」月額サブスクリプションメンバーの方には、参加URLを事前にメールにてお送りします。
参加料400円(税込)
※月額サブスクリプションメンバーは不要
参加方法このウェビナー(Webinar)のみ申し込む
または月額500円(税込)のサブスクリプション サブスクリプションに登録する
※サブスクリプションメンバーは月額500円のお支払いだけで、毎月数回実施される「ローカルナレッジ」が開催する全ての有料セミナーに参加可能です。
購入期限チケットの購入期限は当日11月21日の18:00までとさせていただきます。
主催本棚演算株式会社
※プログラムの内容・時間などは予告なく変更となる可能性があります。ご了承ください。
牧野篤(まきの あつし)
牧野篤(まきの あつし)

名古屋大学大学院教育学研究科博士課程修了。博士(教育学)。中国中央教育科学研究所客員研究員、名古屋大学大学院教育発達科学研究科助教授、教授を経て、2008年より現職。
著書に『生きることとしての学び』『公民館はどう語られてきたのか』『公民館をどう実践してゆくのか』『人生100年時代の多世代共生』『発達する自己の虚構』(いずれも東京大学出版会)など。

参考図書

『公民館はどう語られてきたのか』

『公民館はどう語られてきたのか』

著者:牧野篤

出版社:東京大学出版会

発売日:2018/11/13

4,620(税込)

『公民館をどう実践してゆくのか』

『公民館をどう実践してゆくのか』

著者:牧野篤

出版社:東京大学出版会

発売日:2019/7/23

4,620(税込)